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渡辺源四郎商店Presents うさぎ庵Vol.17  

『山中さんと犬と中山くん』

 

2021年9月2日(木)〜9月7日(日)@こまばアゴラ劇場

               ※会場は、アトリエ春風舎よりこまばアゴラ劇場に変更になりました。

2021年9月8日(水)19:00〜無観客ライブ配信@こまばアゴラ劇場

         ※2021年9月30日までアーカイブ視聴可

作・演出 工藤千夏

出演         桂憲一(花組芝居)

               大井靖彦(花組芝居)

               八代進一(花組芝居)

               西川浩幸(キャラメルボックス)

               山藤貴子(PM/飛ぶ教室)

声の出演   植本純米(花組芝居) 

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チラシ裏画像をクリックすると拡大します。

​撮影 山下昇平 

劇評

                           今村 修(演劇評論家)

 

 一昨日はマチネで、渡辺源四郎商店presentsうさぎ庵「山中さんと犬と中山くん」(作・演出=工藤千夏)@こまばアゴラ劇場。新型コロナウイルスの感染拡大で昨年来度々予定していた公演が中止となり、音声ドラマの配信など様々な形で表現発信を試みてきたうさぎ庵の久々の舞台公演。3部からなる舞台には、想定外のことが次々と現実となったこの間の状況への想いが明確に漂っていた。

 Part1は「山中さんの犬」。夫(大井靖彦)がテレビを見ながらくつろいでいると、いつものように妻(山藤貴子)が帰ってきた。だがいつもと違うのは犬の「シロ」(西川浩幸)をつれていること。どうやら同じマンションの山中さんから預かったらしい。そしてシロにはお宝を見付けるという特技があった。そのことに驚いていると、また玄関のチャイムが鳴った。

 Part2は「Five Dogs−5匹の犬にまつわる五つの小さな物語−」。大井、山藤、西川に加え、桂憲一、八代進一の出演者5人が入れ替わり立ち替わり犬に関する風変わりなショートストーリーを語っていく。

 Part3の「中山くんの縁談」は、高名な中山安兵衛の高田馬場の仇討ちの後日談。中山くん(大井)に赤穂藩仕官を誘う奥田さん(桂)の前に、仇討ち掏摸(山藤・西川)やら仇討ち強盗らしい男(八代)やら、ややこしい人びと次々と現れては中山くんをうんざりさせる。

 三つのPartから浮かび上がってくるのは世界の不確かさだ。Part1では、チャイムが鳴る度に、迎えに出た妻に代わってパラレルワールドよろしく別の俳優が演じる妻が現れ、さらには夫本人と名乗る男や山中さんらしい男まで登場するやら、現実とお伽噺が滲み合うやら、世界の箍が外れていく。TVから流れるCM(声=植本純米)にも相反する言葉が混在して平気だ。こうしたシチュエーション自体がロールプレイングだとも示唆され、アイデンティティーへの信頼に揺さぶりを掛けていく。

 Part2では、様々な犬のそれぞれに怖かったり、シュールだったり、愛おしかったりする物語が、よってたかって現実と別の世界の境を曖昧にしていく。なるほど犬つながりで三つのPartが連なっていくのかと思ったら、Part3の犬要素は鳴き声と生類憐れみの令の時代というだけで、作家は軽々と観客を煙に巻く。しかも、平田オリザの「忠臣蔵」を彷彿させる現代口語による時代劇で、劇中唐突にスマホが出てきたりする。時代は曖昧になり、世に名高い「十八人斬り」は誇大都市伝説とされ、仇討ちの大義、武士という存在自体も相対化される。世界はかくあるべしという思い込みを、舞台は全力を上げてぶち壊す。

 

 それぞれのPartの合間にはそれぞれ短い消毒タイム、換気タイムの時間が設けられ、そこでは俳優たちが素に戻って雑談を交わす。自分たちが今演じた作品への批評があったり、コロナ禍での舞台造りへの愚痴が語られたり。もはや演技と日常も地続きとなり、その感覚はそのまま異常な環境の中での稽古を見せられているようで、コロナ禍という現実に強引に向き合わされる。全体にユルーい作りながら、この世に確かなものはどこにもない、という今の空気を描こうという意志に貫かれた舞台。さりげない企みの数々が楽しい。

 

 そんなことを考えていたら、「山中さんと犬と中山くん」というタイトル自体、犬を軸にした鏡像仕立てになっていることに気づいてニヤリとさせられた。(敬称略)

​今村修氏のご許可を得て再掲させて頂きます。

【スタッフ】

○音響:藤平美保子   ○照明:伊藤泰行 ○舞台美術・宣伝美術イラスト:山下昇平 ○舞台監督:中西隆雄 ○宣伝美術:工藤規雄、渡辺佳奈子 

○プロデュース:佐藤誠  ○制作:渋井千佳子、秋庭里美、木村知子、奈良岡真弓、福嶋朋也 ○制作補:服部悦子、折舘早紀 

○舞台監督助手:山上由美子、白石恭也 ○映像:彩高堂、アップルビジョン 

 

【主催】渡辺源四郎商店、なべげんわーく合同会社 

【企画制作】なべげんわーく合同会社 

【協力】(有)アゴラ企画、一般社団法人進め青函連絡船、キューブ、Griffe Inc.、青年団、東光不動産、ナッポスユナイテッド、花組芝居、

PM/飛ぶ教室、山北舞台音響、(有)ライターズカンパニー(五十音順)

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